清山会グループからのご案内

ナラティブRBA奨励賞

2018.05.01

2018年5月ナラティブRBA賞受賞 杜の家ふたば 高澤 智子 さん

今回はTさんと杜の家ふたばの関わりについて書かせていただきます。
 今年に入り、もともと細かった食がさらに細くなり、体力がガクンと落ちてしまったTさん。以前は畑仕事を手伝って下さったり、ドライブに出かけるのが大好き。洗濯物を干す時も角と角をきっちり揃える、床に落ちてる小さなゴミも見逃さない、そんなTさんが3月に体調を崩してしまい、かかりつけ医からは老衰との診断。ご家族は「高齢だし、これ以上の治療は望みません」とお看取りの方向でふたばの連日お泊りとなりました。
 食事も水分もとれず、このままではどんどん弱っていってしまう。いつ心臓がとまってもおかしくない。スタッフの想いは、Tさんになんとか栄養と水分をとってもらい、元気になってほしい。一緒にドライブしたりお出かけしたい!という想いでした。
 毎食、みんなと同じお膳の他に、スタッフそれぞれが考えて、Tさんが好きそうなもの、食べれそうなものをあれこれ試してみる。
 「牛乳寒天は食べたよ!みかんの缶詰も食べるかも」「干し柿好きだったから柔らかい干し柿なら食べるんじゃない?」「前は絶対に食べなかったけど、あんこ入ったまんじゅうとかヨーカンも食べたよ!」などとTさんのお盆の上はTさんが好きなもの、食べたいと思ったものを食べれるようにと皿が何枚も並んで賑やかなお膳になっていました。また、Tさんの性格から、「食べて、食べて」と勧められるとすすまないので、少し離れたところから見守り、Tさんが食べたい気分になるのを待ちました。Tさんが箸やスプーンを持って食べ始めると、それをみたスタッフはニヤニヤしたものです。
 日によって体調は違いましたが、すこーし体力が回復してきた頃、外は桜の咲く時期でした。以前からドライブが大好きだったTさん。Tさんもドライブ行く?と聞くと、行くとの返事。ドライブ行くなら、もうちょっと水分とって行ってほしいなぁ…とスタッフが声をかけると、お茶を一気飲み。みんなと一緒に車に乗って桜を見に公園へ行きました。
 桜を見に行った数日後、ドライバーの菊地さんがTさんの近くを通ると「家に帰りたい」とTさん。1ヶ月くらい連泊していたので、Tさんも娘さんのいる家に帰りたくなったのでしょう。その場でご自宅に帰るのは難しかったので、菊地さんの運転する車でスタッフと一緒に桜の花を見に行きました。
 連泊する前はお泊りが大嫌いで、泊り用の大きなバッグを見るたびに怒ったり落ち込んでいたと娘さんから聞いていました。そろそろ体調も落ち着いてきたので、日中の数時間・お昼ご飯を食べに家に帰れないか?と娘さんに話してみましたが、娘さん自身の体調が良くないということで、断られてしまいました。何度か娘さんに1時間か2時間でも…スタッフも付き添いますから…とお話ししてみましたが、娘さんから良い返事はいただけませんでした。
Tさん本人の一番の希望は「家に帰ること」だけど、それを実現できない悔しさ、家族を納得させられない自分が力不足なのか?と葛藤する日々。Tさんが家に帰るという希望はかなえられてないけど、毎日の食事や日々の関わりでTさんに少しでも元気になってもらいたいというスタッフの想いが日増しに大きくなっていました。
 「Tさんは家に帰りたいと思っているかもしれないけど、家に帰ることだけがTさんにとっての幸せなのかな?ふたばでお泊りしてても、ここで良かったと思えるような関わりをしたらいいんじゃないかな?」と思えてきました。看取りといわれたからって特別なことをするんじゃない。当たり前の日常、その時に本人がしたいと思ったこと、その瞬間を大事に一緒に過ごすことに意味があるのではないかと。
ある時、親身なって食事の準備をしていたスタッフに、「誰んちのばぁちゃんなんだろうね?」と言葉を投げかけた時に、「みんなのばぁちゃんだから」という返答が返ってきました。Tさんにとって、私たちスタッフは子どもでもなく孫でもありません。家族とは思っていただけないかもしれないけれど、Tさんの心が休まる場所、わがままを言える場所でありたいと思っています。
そんな最近のTさんですが、復活してきてます!GWには菜の花をみに三本木にドライブ。その帰り道の途中でトイレに行きたいと、顔なじみの利用者さん宅でおトイレを借りたり。今日も夕食には娘さんが母の日だからと差し入れしてくれた大好きなメロンやヨーグルト、ごはんに梅干し(梅干しは以前は食べなかったそうです)、牛乳寒天、レモンケーキなどなど、いろんな食べ物が並びます。以前と違うのは、1つ1つのお皿が空になることが増えたということ。そして、食事の途中で後ろを振り返り、スタッフにアピール。「カーテン空いてるよ」と。「じゃあ一緒に閉めに行きましょう。ありがとうございます」と隣に付き添って歩くスタッフ。まだまだTさんと私たちの事業所の物語は続きます。
…とあまりにも文章が長くなってしまうので、今回は私たちの事業所との関わりだけを書かせていただきましたが、このTさんとの物語には山崎先生をはじめ、ここに書ききれないほどたくさんの清山会グループの皆さんの支えやアドバイスがありました。あらためて清山会グループの皆さんに感謝したいと思います。そして、これからもよろしくお願いします。

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