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ナラティブRBA奨励賞

2018.11.30

2018年11月ナラティブRBA賞受賞 みはるの杜診療所 髙橋 美也子 さん

100年に一度のスペシャルデイ!!

みなさんは100歳のお誕生日を祝ってもらったことがありますか?
または100歳まで元気で、お祝いしてもらう自信がある人はいますか?

その日は職員みんなが浮き足立っていました。わくわくドキドキ。
誰かの特別な日。それがみんなの特別な日。
その日はデイケア全体がハッピーオーラに包まれた一日になりました。

Tさんとわたしたちとの出会いは約9年前。
Tさんは大正7年生まれ、佐賀県出身。戦中に台湾へ行き、そこで宮城県角田市出身の旦那さんと出会い、恋愛結婚して日本へ引き上げてきたそうです。
Tさんは学校の先生やパート、農業など、いろんなお仕事や、手芸、ちぎり絵、習字、合唱サークル、押し花などなど、いろんな活動に興味を持ち、活躍してきた方です。
みはるの杜には、骨折に伴って入院し、その後の生活の安定のためにリハビリ、入浴のサービスを希望して通い始めたのがきっかけとなりました。

とにかくTさんはすごい。すごいんです。年齢を感じさせない活発さと。なんでも自分でやってみたいし、やらないと気が済まないし、人に迷惑を掛けたくない、そんな気持ちが強い方です。
そのため、娘さんのいない時に電話に出ようとして転倒したり、夜お部屋の電気を消そうと、ベッドに上って電気のコードを引っ張ろうとして転んでしまい、頭でガラス戸と突き破り血だらけになったり。
それでも娘さんに『救急車は呼ばないで、血だけ拭いて』って、、、。いろいろと心配は絶えない方で、なんだかほっとけないんです(笑)
何より、まず、女性としてのキュートさが半端ない。スタッフや利用者さん、みんながTさんの虜です。
かわいらしいだけではなく、お転婆で、どきどきさせてくれて(笑)、冗談も言うけど、時には人生の先輩としてありがたい言葉をくれて・・・みんなを魅了してやまない存在なのです。
私もTさんが大好きです。利用者さんみんな大好きだけど、その中でも、オンナとしての生き方を尊敬しています。

Tさんとはリハビリのときや、ことあるごとに沢山お話をさせていただいていますが、一つ印象に残ったことがありました。
Tさんにはお子さんが4人いらっしゃいます。ですが、小さいころにお一人亡くされており、大変つらい思いをしたそうです。仕事と主婦としてのお姑づとめと、忙しく、苦労も多かった時代だったそうです。
旦那さんが眠ったあと、まだ乳飲み子を背負い外に出かけ、そのまま心中しようと覚悟をしていた時、いつもは目を覚まさない旦那様が気付き、声を掛け、思い留まったそうです・・・。
それから何十年も苦楽を共にしてきた旦那さんを約10年前に亡くし、娘さんの所に身を寄せていました。

今ここでみんなに笑顔をくれる、優しいTさん。Tさんの100年の年月はどんなだったのでしょうか。
私はまだ父も母も健在です。なので、両親を失う辛さは想像できませんが、Tさんはご両親や兄弟、お子さん、友人との別れ、いろんな辛い思いを経験してきています。
当たり前のことですが、見た目はかわいらしいニコニコのおばあちゃま。でも、お話を聞くと『人に歴史あり。』ということを改めて感じます。
私たちが思う以上にずっと深く、長~い人生を過ごしてきたのだと思います。

実は、お誕生日企画は数カ月、数年前からこっそり企画されていて、あと何年で100歳なんだよ、ってみんなが声を掛けるたびに、100歳のときにはぜひみんなでお祝いしようね!ってみんなが自然に口々に言っていました。
自然に口にするって、ひとえにやっぱりTさんの人間力がひきつけるパワーだと思います。

数カ月前には、シフトを調整して、誕生日の前日の利用日にお祝い!!の予定が、内閣総理大臣からのお祝いやら、市長が来るとか、日程は直前で変更になったりバタバタ。
娘さんにもサプライズでお祝いをしたいと話し、共犯者になってもらい、綿密な計画を立てたにも関わらず、数日前に転倒して柱の角に頭をぶつけ、2針縫う大ケガを負い、『パーティー中止?!』の危機もありつつ・・・

11月2日、天気もとっても良く、まさに小春日和。お天道様もお祝いしてくれていました。
こっそりお昼頃から助っ人も登場して、パーティー準備。うちには助っ人外国人ならぬ、助っ人パティシエ(現在育休中)が居ます。
100歳の誕生日にふさわしいケーキを作るため、数カ月前からアポイントを取り、Tさんのためなら!と快諾。その日のために旦那さんにも休みを取ってもらい、家族で登場。
ひさしぶりに利用者さんに会いたい気持ちを抑えながら、下っ端スタッフ2人を従えて、モンブランケーキ作り。こっそりリサーチしていたのでした。

そして、いつもボランティアでお世話になっている花屋さんで花束を用意。いつもお世話になってるから、と、100歳のお祝いにふさわしい素敵な花束を作ってくれました。
お祝いのケーキには100本分のろうそくは立てられないので、、、数字のキャンドルを用意して、登場はクラッカーで派手に、と行きたいところだけど、びっくりして誰か倒れたら困るので、それは止めておき・・・

休みなのにお祝いしたくて駆けつけてくれたHくんの歌に合わせてパーティー開始です。
みんな『何?!何が始まったの?!』ときょとん顔。何より、Tさん本人がびっくり顔。
ケーキとお花のプレゼントに、『わぁ~』ってびっくりした顔。
そのお顔を見て私たちも心から、『おめでとうございます』利用者さんからも口々に『Tさんおめでとう~!』『100歳なんだって?すごいね~』って、集めるんじゃなくて、みんなが自然に集まってきた、そんな感じで集合写真。
幸せな瞬間に立ち会うことが出来ました。
Tさんに、100歳の抱負を聞いてみたら、

『いつの間にかこんなになっちゃってね~。』と。
『これからもみんなに迷惑かけないようにしたい。』

これがTさんの本質なのかなと思います。いつまでも人の手を煩わせないで、何とか自分で歩いてトイレに行きたい。迷惑を掛けたくない。
そんな言葉を聞くたび、その気持ちがTさんのすべてなんだ、と感じます。
蜂窩織炎で入院になったときも、肺炎で入院になったときも、必ず歩けるようになって帰ってくるTさん。
聞くと、『看護師さんに動いちゃだめって言われたのよ~』『でも、こっそりベッドで運動したの』と、どんな時も『歩けなくなったらみんなに迷惑をかける』という気持ちから、廃用に負けずに復活しています。
Tさんの体験から、いつも学ぶことが多いのですが、リハビリにおいても、何歳になっても筋力は向上する、当たり前のことを学ばせていただいています。
なので、これからも他の方にも同様に、100歳のばぁちゃんが言ってたんだから間違いない!!って私も伝えていきたいと思います。

来年も再来年も一緒にお祝いしましょうね。それにはいつも、『明日コロリするかもしれないよ』とお年寄りならではのブラックジョークで応えてくれます。
今回のTさんのお誕生会は、みはるの杜を一つにまとめてくれ、みんなが自然と集う、そんなやさしさに包まれた会になりました。
100年生きてきたからこそ身をもって教えてくれた、優しさ、強さ、逞しさ。そして、愛情。まだまだTさんに学びたいことがたくさんあるし、もっともっと一緒に楽しい・うれしいを共有していきたい。
だから、Tさんにはまだまだ『使命』があります。どうぞ、これからも宜しくお願いします。

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